自閉スペクトラム症(ASD)の早期サイン|目が合わない・指さしをしない?1歳半健診の見方を小児科医が解説
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夜中の授乳や寝かしつけのあと。「1歳 目が合わない」「1歳半 指さし しない」と検索し続けて、余計に眠れなくなる。外来やSNSで、そんな保護者の方をたくさん見てきました。健診の問診票に○が付けられなくて、会場で泣きそうになったという話も聞きます。
先に、この記事の結論をお伝えします。これから挙げる「サイン」は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断そのものではありません。相談を始めるきっかけです。そして、相談が早すぎて損をすることは、まずありません。
結論:サインは「診断」ではなく「相談のきっかけ」
自閉スペクトラム症(ASD)の早期サインとは、指さしをしない・目が合いにくい・名前を呼んでも振り向かない・身ぶりの真似が少ないといった、ことばが出る前の「やりとり」の乏しさです。ただし当てはまっても診断ではなく、多くは月齢に照らして経過を見ながら判断します。
不安の渦中にいる方に、まず押さえてほしいのは次の3点です。
- ASDは生まれつきの脳機能の発達の偏りで、育て方や愛情不足のせいではありません1
- サインに当てはまる=ASDではありません。月齢と組み合わせて総合的に見るもので、判断は専門家の仕事です
- 診断がなくても支援は受けられます。早く相談して損はありません
「検索し続ける夜」を終わらせる方法は、より正確な情報と、具体的な相談先です。順に整理します。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASDは、生まれつきの脳機能の発達の偏りです1。対人関係やコミュニケーションの持ちにくさと、興味や行動の強いこだわりが特徴です。「スペクトラム(連続体)」という名前のとおり、特性の濃淡はさまざまで、はっきりした線引きはありません。
有病率は人口の1%に及ぶともいわれ、男の子に多い(女の子の2〜4倍)とされています1。決してまれではなく、どの園にもクラスにもいる、身近な特性です。
原因について、はっきりお伝えしたいことがあります。ASDは親の育て方・接し方・愛情の量が原因で起こるものではありません1。外来で「私がスマホを見せすぎたせいですか」と涙ぐむお母さんに会うたび、この誤解の罪深さを感じます。自分を責める必要はまったくありません。
早期サイン——「ことばの前のやりとり」に注目
ASDの早期サインというと「ことばの遅れ」を思い浮かべる方が多いのですが、小児科医が注目するのは、ことばが出る前の「やりとりの土台」です。専門的には共同注意と呼ばれる、興味を人と分かち合う行動がその中心です2。
1歳〜1歳半ごろまでに育ってくる、やりとりの土台の例です2。
| 行動 | 具体的な様子 |
|---|---|
| 指さし | 欲しいものだけでなく、「見て!」と伝える指さしをする。大人が指さした方向を見る |
| 視線・表情 | 目が合う。遊びの途中で大人の顔を見て反応を確かめる(社会的参照) |
| 呼びかけへの反応 | 名前を呼ぶと振り向く |
| 模倣 | バイバイ、パチパチなど身ぶりの真似をする |
これらが月齢相応に見られない状態が続くことが、ASDの早期サインとして注目されます。逆に言うと、ことばが少なくても、指さしで伝えようとし、目が合い、真似っこ遊びができるなら、ことばだけがゆっくりのパターンも多いです。ことばの遅れ全般についてはことばが遅い子の記事で詳しく解説しています。
注意してほしいのは、逆のパターンもあることです。目が合うし指さしもするのに、癇癪や偏食、感覚の偏りからASD傾向が分かった、というケースもあります。パパ友からも「典型サインがなかったから、かえって気づくのが遅れた」と聞いたことがあります。サインのリストは万能ではなく、「気になることがあれば相談する」が結局いちばん確実です。
もうひとつ、小児科医として強くお伝えしたいことがあります。いったん出ていたことばが減っていく・消えていく。「まんま」「わんわん」が聞かれなくなる。この経過(退行)は、月齢を問わず速やかな評価が勧められるサインです3。気づいたときは、様子を見ずに早めの相談をおすすめします。
1歳半健診では何を見ているのか
1歳半健診は、やりとりの土台を確認する、最初の大きなチェックポイントです。健診では、M-CHAT(乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)に代表される問診が使われます2。対象は16〜30か月、23項目に保護者が「はい/いいえ」で答える形式で、指さしの有無、視線、呼びかけへの反応、真似などを尋ねる項目が並びます。
ここで大切なことを2つ。
M-CHATはスクリーニング(ふるい分け)であって、診断テストではありません2。スクリーニングは見逃しを減らすため、意図的に広めにすくい取る設計になっています。だから「引っかかった」は「ASDと判定された」ではなく、「丁寧に見ていきます」という意味です。
引っかかった後の流れも知っておくと安心です。多くの場合、保健センターでの経過フォロー・親子教室・心理士による発達の評価などを経て、必要な子だけが専門機関へ、という段階的な仕組みになっています。診断も1回の診察で決まるものではなく、経過を見ながら判断されます。「様子見」が多いのは、この仕組みの裏返しでもあります。
そして、健診は「合否判定の場」ではなく「相談の入り口」です。健診を担当していると、問診票の項目に○が付かないことを謝るように報告してくださる方がいます。謝る必要はまったくありません。気になることを伝えてもらえるほど、健診は本来の仕事ができます。
「様子を見ましょう」と言われたら
健診後にいちばん多いモヤモヤが、これです。知恵袋でも「様子見と言われたが、何をすればいいのか」という質問を何度も見かけます。わが家の下の子もことばが出るのがゆっくりで、専門家に「様子を見ましょう」と言われた時期があります。頭では意味が分かっていても、待つ側になると長いものです。
「様子見」を、次の3つの行動に置き換えてみてください。
- 記録する:指さし・呼びかけへの反応・ことばの数を、スマホのメモや短い動画で残す。次の相談の何よりの材料になります
- つながる:自治体の親子教室・発達相談は、様子見の期間でも利用できます。「診断がないから何もできない」は誤解です(詳しくは診断前の療育の記事へ)
- 期限を切る:「次の健診まで」「3か月後まで」と期間を決め、モヤモヤが続くならその前でも小児科や発達相談窓口へ
家庭でできることは、特別な訓練ではありません。子どもの興味に大人が乗っかって、視線と笑顔をやりとりする遊び(くすぐり遊び、いないいないばあ、真似っこ)を増やすこと。これはASDであってもなくても、やりとりの土台を育てる関わりです2。
相談の目安と相談先
次のような場合は、健診を待たずに、かかりつけの小児科か自治体の発達相談窓口への相談をおすすめします。
- 1歳半ごろになっても、指さしをしない・目が合いにくい・呼んでも振り向かないが重なって続いている
- 出ていたことばが減った・消えた(退行。この場合は月齢を問わず早めに3)
- やりとりの遊びが成立しにくい、癇癪・偏食・感覚の偏りが強く生活に支障が出ている
相談の入り口は、かかりつけ小児科・自治体の保健センター(健診のフォロー窓口)・児童発達支援センターのどれでも構いません。そこから必要に応じて、発達を専門とする医療機関につながります。専門機関の初診は、数か月待ちも珍しくありません。迷っている時間がもったいない。この実務的な理由でも、早めの相談をおすすめします。
なお、ASDには注意欠如多動症(ADHD)などが併存することもあります3。落ち着きのなさや衝動性が気になる場合は、ADHDの早期サインの記事もあわせてご覧ください。感覚の偏り(音・肌ざわりへの過敏さ)については感覚過敏の記事で詳しく扱っています。
よくある質問
目が合わないだけで自閉スペクトラム症(ASD)なのでしょうか?
目が合いにくいことだけでASDとは判断できません。視線の合い方には個人差が大きく、集中しているときは誰でも目が合いにくいものです。サインは指さし・応答・模倣・ことばなど複数の行動を月齢に照らして総合的に見ます。ひとつの行動で悩み続けるより、健診やかかりつけ医に「気になっている」と伝えるほうが早道です。
1歳半健診で「様子を見ましょう」と言われました。何をすればいいですか?
様子見は放置ではなく、観察期間です。指さし・応答・ことばの数を記録し、動画で残しておくのがおすすめです。次の相談の強力な材料になります。様子見の間も親子教室や発達相談は利用できますし、モヤモヤが続くなら期間を待たずに相談して構いません。
ことばが遅いだけの子と、ASDのサインはどう違いますか?
ことば以外のやりとりに注目します。視線が合い、指さしで伝え、真似をするなら、ことばだけがゆっくりのパターンが多いです。ことばの遅れに、指さしをしない・振り向かないなどのサインが重なるときは、一度相談をおすすめします。
診断がつかないと、療育や支援は受けられませんか?
診断がなくても受けられる支援はあります。親子教室・発達相談のほか、児童発達支援などの療育も「支援の必要性」で利用につながる場合があります(医師の意見書などが必要な場合を含め、運用は自治体により異なります)。「診断がつくまで何もできない」は誤解です。
夫や祖父母に「気にしすぎ」「男の子はことばが遅いもの」と言われます。
印象ではなく、記録で共有するのがおすすめです。問診票の項目を一緒に見ながら具体的に話すと、感情論になりにくいです。相談が早すぎるデメリットはほぼなく、遅れるデメリットは大きい——この非対称性が、迷ったときの判断基準です。
まとめ:検索する夜を、相談する昼に変える
サインのリストは、保護者の方を不安にさせるためのものではなく、相談を始めるためのものです。最後に3点だけ。
- ASDは育て方のせいではない。サインに当てはまる=診断でもない1
- 見るポイントは「ことばの前のやりとり」——指さし・視線・応答・模倣2
- 「様子見」は記録・つながる・期限を切るの3行動に変換。診断がなくても支援は受けられます
深夜の検索でこの記事にたどり着いた保護者の方へ。眠れない夜を繰り返すより、明日、かかりつけの小児科か保健センターに一本連絡を。それがお子さんにとっても、ご家族にとっても、いちばんの前進です。
参考文献
-
厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
国立成育医療研究センター「社会性の発達状況の把握と支援のポイント」(子ども・子育て支援推進調査研究事業 研修教材) https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/chapt_5-3.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
米国小児科学会(AAP)臨床報告「Identification, Evaluation, and Management of Children With Autism Spectrum Disorder」Pediatrics. 2020;145(1):e20193447 https://publications.aap.org/pediatrics/article/145/1/e20193447/36917/ ↩ ↩2 ↩3
医師確認済み
ラボの小児科医(日本小児科学会 小児科専門医・日本アレルギー学会 アレルギー専門医)が「全文」を確認 (2026/7/12)
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